弟02話「バグズ」
宇宙に浮かぶ円盤都市コズモス。
ここに住む女の子たちの物語。
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次の日は魔法陣のことばかり考えてしまって授業どころでなく、終業のベルと共に部室にも寄らずに帰ってしまった。
「ミッドノールさん、ただいま帰りました」
「おかえり、メグミちゃん」
「何か分かりましたか?」
「うん、祖父の残した資料を調べ直して、いくつか分かった事があるよ」
「あのオバケのこと、祖父は『バグズ』って呼んでたらしい」
「バクズかー」
「よくゲームとかで聞くだろ?魔法陣ってのは魔法のプログラムみたいなものだから言い得て妙だよね」
「それと、これ見て」
大家さんは手元のモニターを見せてくれた。
「たまたま撮れてたものなんだけど」
昨日の屋根裏部屋の映像のようだ。
部屋の中央に大家さんが映っている。
そして大家さんの横あたりにボゥーっと光るモヤモヤが…。
「あれ?このモヤモヤしたやつ、私ですか?」
「そう、どうやら魔法の効果がある時はセンサーの類いが認識出来なくなるらしい」
「へー、じゃあ変身してる時の格好、ホロメ(ホログラムメモリ=この世界での写メみたいなもの)で撮れないですねー」
「ホロメ?ああ映像記録か、それもあるかも知れないけど問題なのはバグズの方だよ」
「うーんと?」
まだ話を飲み込めてない私に、大家さんはナゾナゾのような問いかけをしてきた。
「バクズがセンサーに映らないということは?」
「…あ、機械じゃ見つけられない!」
「そう、自分たちの足で一つ一つ探さないといけないんだ」
「えー!」
一気に私のテンションが下がった。
「どうするんですかーどこ探したらいいか分かりませんよー」
「大きな騒動が起きないことを祈りながら地道に探すしかないね」
「うーん↓」
元はといえば自分のせいだから、文句が言えない。
「あ、そうだメグミちゃん、万が一のことを考えて、魔法陣カードとリーダーを持っといておいて」
「え!持っていていんですか?」
「うん、事態を把握できるまであまり目立ったことはしたくなかったんだけど、どこでバグズと遭遇するか分からないからね」
「分っかりましたー!!」
特別だよ?と言ってリーダーと昨日使った『麻痺』と『捕縛』の魔法陣を渡してもらった。
一気に私のテンションが戻った。
次の日の私は別の意味で上の空だった。
そんな様子のおかしい私を見て、クラスメートのランとコシカが話しかけてきた。
「メグぅーどうしたんだよー、いつも以上に変だったぞ?」とラン。
「メグさん、昨日からどうしたのですか?」とコシカ。
ロウ族のランとミョウ族のコシカ。
二人とも私のクラスメートだ。
大親友ってほどでもないけど、休み時間のたびにふざけあうくらいの仲ではある。
「あたしが話しかけても生返事ばっかりだったし」
「ごめん、実はおとといから下宿先の大家さんの部屋の掃除の手伝いしててさー」
「大家さんって、郷土史のミッドノール先生?物持ち良さそうー」
「毎回講義で色んな資料持ってきてくれますものね」
「うんうん、絶対部屋散らかってるってパターンだよね!」
「そんなとこ…」
「やっぱりー♪」
「ラン、先生に失礼ですよ!」
話の流れで言いそびれてしまった。
もっとも大家さんからはあまり言わない方が良いと言われていたので丁度良かったかも知れない。
「それじゃ今日も掃除?」
「あ、いや今日は部室にでも寄って行こうかなって」
魔法陣のことは気になるが、焦っても仕方がない。大家さんからの連絡もないことだし、いつも通りにしておこう。
「ふーん、たまには私たち帰宅部の活動にも付き合ってよね!」
「あ、ごめんね…」
「あははっ冗談よ、また明日ね!」
そう言ってランとコシカは帰っていった。
「冗談か…」
いつもなら笑って済ませるとこなのに、やっぱり今日の自分は変だったか。
バグズのことの上に更に今日はサーキットリーダーと魔法陣。
誰に見せる訳でもなく持っているだけでついついにやけてしまう。
まるで新しい玩具を買ってもらった子供のよう。
その気持ち分かりすぎる。
今日一日、我ながら良く頑張ったものだ。
さいわい何事も無かった事ですし、
「それじゃー部室に寄ってきますか」
と思った矢先の事だった。
「キャ〜!!!」
すぐ近くから悲鳴が聞こえる。
「(あの声は)コシカ!?」
声の聞こえた方へ急ぐ。
「いたっ!」
やっぱりコシカたちだった!
「コシ!…あ」
「やーん!」
「バカ!やめろ!!」
なんという微妙な状況。
二人ともバグズの周りをフワフワと宙に浮いているではないか。
何も支えるものがないせいか二人ともかなりあられもない格好になってしまっている。
「現役女子高生的には、危機的状況なのかも」
バカなことは言ってられない。
私は物影に隠れ、カバンからサーキットリーダーを取り出し『変身』の魔法陣をセットした。
「魔法陣(サーキット)、自動詠唱(ロード)!!」
淡い光に包まれ、私は魔法少女の姿に変身した!
フワッとした感覚、まだ慣れないけど何とかできる。
そのままサーキットリーダーに魔法陣をセットしてトリガーを引く。
「『フリーズ』『キャブチャー』!」
リーダーから放射状に光が飛び出しバグズの周りを取り囲んだ。
「よし!」
一匹だけだったので初めての時よりもあっさりと捕まえることができた。
そしてこの間と同じようにしばらくするとバグズの形を失い元の魔法陣に戻った。
「回収成功!」
手に取った魔法陣を何気なく見てみるとカードの端に『浮遊』と走り書きがあった。
大家さんのおじいさんのメモ?
『浮遊』って…!もしかして空が飛べるようになるってこと?
益々テンションが上がる私。
「あの…」
「はい?↑」
急に声をかけられて声が裏返ってしまった。どうやら周りのことを忘れて舞い上がってしまってたようだ。
「助けて頂いてありがとうございます…あの」
あら、私って気付かれた?
一応まだ秘密だし、どうしよう…頭の中を色んなごまかしの言葉が駆け巡る。
「えーっと…」
「もしかしたら、これって何かの撮影ですか?番組?その服可愛いですね!」
「ああ、いやー何ていうかその…サヨナラ〜」
まさか撮影と勘違いされるとは。
正体がバレないから都合がいいけど。
やっぱりこの格好は目立ちすぎかー。
次は地味な格好にしようと思いながらその場から退散した。
偶然とはいえ魔法陣を回収できて良かったけど、これからこんなラッキーなことばかりじゃないんだろうな。
いまだに分からないことだらけだけどまずは大家さんに報告して次のことを考えてもらおう!
明日は明日のなんとかだ!
(第02話終)
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